back / top / next

秘密のお話




 王様との電話を終えた僕は、弟君を呼び出した。部の皆への報告は後回し、今は、頭に浮かんだある可能性があるため、弟君にだけ話をすることにした。

 「何かヒントはもらえたのか?」

 第一声に、弟君がそう言った。
 僕は笑って、「いちを」と答えた。そして、王様が言っていた本を取り出し、中身をぱらぱらと流し読みしてみた。確か、この本の大まかな話は画家による殺人事件だ。主人公が殺害されたと思っていた被害者たちは、主人公が最初見たときにはまだ生きており、その後で殺害された。そんな話だ。
 ……ちょっと待て。最初見たとき、被害者はどうやって殺されたかのように見せかけていた?慌てて、最初の殺人が起こったページまでめくる。いちを読破はしたが、半年ぶりに読んだので内容が曖昧にしか覚えていない。これでは、駄目だ。
 ページをめくって、目的のページを探す。三分ほどして、ようやく見つけた。そうか、これだったんだ。これを使って、殺害されているかのように見せかけたんだ。なら、後はどうやって密室にしたか、だ。それに、このトリックが本当なら……被害者である舞妓はんやお嬢さんは。

 「めばえ君、内緒の話がある。誰にも話しちゃいけない話だ。もちろん、めぐにも。」
 「はぁ?何考えてるんだよ、アンタ。」
 「いいから。この事件、事件じゃないかもしれない。」
 「訳分からないんだけど。」

 話していいものか、凄く悩む。だが、弟君の性格からしてちゃんとした理由がなければ、手伝ってくれないだろう。姉に隠し事をすることになるのだから、本人もそれは嫌なはずだ。だが、これは弟君にしか頼めないことなんだ。

 「僕と君以外は、この事件の関係者の可能性がある。」
 「は?」
 「しかも、この事件は事件ではないおそれがある。」
 「え、どういう……。」

 あぁ、やっぱり混乱してる。それもそうか。いきなり、事件が事件ではないかもしれないなんて言われたら、混乱するよな。

 「説明したいけど、ここじゃあ場所が悪い。……さて、弟君。」
 「今度は何ですか。」

 おや、呆れてか疲れてか、敬語を使い出した。弟君には悪いが、僕の味方は現状では、弟君だけなんだ。

 「二人で現場検証しようか。」
 「え?いいんですか。」
 「ちょっと、知りたいことがあるんだ。それに、話の続きもしたいし。」
 「わかったよ……ついて行くよ。」

 あ、元に戻った。
 僕は部長に一言告げ、弟君を引き連れて美術室へ向かう。しかし、王様も考えたものだ。いや、考えてやったのか、狙ってやったのかは微妙だが……何故僕が愛読書の五巻をピンポイントで所持していることを知っているのかも気になる。この事件、僕がヒントの電話をしても本を持っていなければ意味がない。それとも、僕が本を持っていなかった時ように別のヒントも用意していたのだろうか。まったく検討がつかない。
 難しい顔をしていたのか、弟君が「何眉間にしわ寄せてるんだよ」なんて言ってきたので、いい機会だと思い、王様の話をしてあげた。弟君も、王様から感じるストーカー臭と不気味さに震え上がっていたが、さりげなく、「めばえ君のことも下調べ済みだよ」と言うと、「ひぃ」と情けない声をもらしていた。録音すればよかった。
 さっきまで居た教室のある棟から出て、美術室のある棟へ向かう。そろそろ話してもいいだろうと思い、弟君に何故弟君を選んだのかを話すことにした。

 「さっきの続き、話しながら行くよ。」
 「どーぞ。」
 「王様に電話して、自分なりに考えをまとめてみたんだけど、どうも騙されている感じがするんだ。」
 「騙されてる?」
 「そう。そもそも、この文化祭に参加しようと言ったのは部長だ。確かに、『名探偵ユークリウスの事件手帳』の作者がゲストで来るって言うのがきっかけ。でも、タイミングが良すぎると思わないか?」
 「タイミング?」
 「文化祭の最中は人の出入りが多いから、外部犯の犯行は否定できない。でも、外部犯がわざわざピンポイントで美術部員を狙う理由は、あまり考えられない。」
 「前々から狙ってたとかじゃあ。」
 「それなら、帰宅途中を狙ったほうが誰にも見られないし、より確実になる。」
 「それで、ですか。」

 そう、これは仕組まれた事件である可能性が高い。それも、推理研究会と美術部の合同で仕組んでいる。そして、王様も関係者だろう。おそらく、この事件を考えたのは部長だ。部長なら、こんなことすぐに思いつく。僕を試しているのか、何をしたいのかは分からないが、これは挑戦と言っても過言ではない。ならばその挑戦、受けて立つべきだろう。

 「それで、なんでめぐが関係者だと?」
 「めぐが誘ってきたそもそもの原因だから。めぐが部長に話して、部長がこの事件を考えたんだと思う。」
 「なら、どうしてオレが関係者ではないと?」
 「勘に近いけど、まぁ根拠としてはめぐが弟を巻き込むとは思えないから。今回は人数制限があって、人数分のチケットをきちんと消費しないと入れてくれないらしいから、数合わせとして弟君を連れて来た可能性が高いからね。」
 「なら、オレじゃなくてあの、推理研究会の部長の弟を連れてくればよかったじゃないか。」

 あぁ、部長の弟君か。彼は彼で、色々忙しいらしいから無理なのだろう。部長と違って、家のほうの手伝いもあるらしいから。というか、平然と同級生でもある友人を生贄に捧げるかのような発言をしたな、こいつ。

 「ともかく、ちゃんと働いてくれよ、めばえ君。」
 「……適当に頑張りまーす。」

 そんな呑気な声を上げて、弟君は鍵を取り出し、鍵を開けた。
 早く、事件を解決へと導く手かがリを見つけなければ。



back / top / next

Copyright © 安住味醂 2011-2012 All rights reserved.