Short Story

廻る世界で




 ぐるぐるぐるぐる。周り続ける世界のように、僕らは出会いと別れを繰り返す。同じ運命を繰り返す。何度生まれ変わっただろう。生まれ変わるたびに、君に「はじめまして」と言った。何度言ったか、分からなくなるくらい。生まれ変わっても、僕は記憶を持っていた。でも、君は記憶を持っていなかった。君は何度罪を重ねるのだろう。忘却、それは幾度となく僕の心を傷つけた。君が「はじめまして」と言うたびに、僕の心は死んでいく。出会いの「はじめまして」と別れの「さよなら」が僕の心を削っていく。君は僕に「さよなら」を告げる。どうして、と僕は幾度となく思う。僕は何度も運命を変えようとしてきたのに、君はそれを無意味にしてしまう。僕の努力が無駄になっていくたびに、僕の心が崩れていく。壊れていく僕の心は誰にも直せないのに。
 どうしてこんなことになったのだろう。思い出そうとしても思い出せない。思い出せなくなるほど長い時を、僕は繰り返しに費やしていた。最初の別れはどんなものだっただろう。それさえ、思い出せない。

「貴方といるとつまらないの」

 君が言う。「どうして」と僕が言うと、君は呆れたように笑った。

「貴方がつまらない人だから」

 嗚呼、そうやって君はまた僕に「さよなら」を言うんだね。こんな展開、前にもあった気がする。なんでいつもこういう結末になってしまうのだろう。つまらない人と言われるから、つまらない人にならないように努力したのに。君はどの努力を無駄にするんだね。ほろり、と心に絡まるものがある。くたり、と心が消沈していく。ほろほろ、と瞳をこぼれていく何かがある。
 リセット。
 世界とは同じ運命を繰り返し続ける、すごろくのようなもの。既に決められた運命の上で、さいころの目の通りに進む。止まったマスに書かれていることが運命となる。でも、全て定められているもの。結局は違うマスに止まっても、同じすごろくの上にいることに変わりはない。やり直すのは簡単だ。駒を全てスタート地点に戻せばいい。はい、さようなら世界。さようなら、僕の世界。僕だけのすごろく。
 壊れていく世界を眺めながら、何がいけなかったのだろうと反省するべき点を探る。それは次の糧になる。壊れていく世界では、僕と君の行動が映し出される。リプレイされる世界。それが終われば、世界はまた新しく始まる。
 リセット、リプレイ。また繰り返す。本当に、何が駄目だったのだろう。呆然としながら、自らの行動を見返す。でも、そこに悪い点は見受けられなかった。こう感じるのも何度目だろう。僕自身の目では、もうどこが悪いのか分からなくなっている。これでは駄目だ。そうやって、僕はまた新しい世界で手探りの状態から始めることになる。それじゃあ、反省会終わり。リスタート。

「はじめまして」

 出会いからやり直す。

「さよなら」

 でも、結末は変わらない。
 また世界を壊す。リセット。
 反省会のために、リプレイ。
 そして、リスタート。
 出会いからやり直して、別れもやり直す。リセット、リプレイ、リスタート。
 何度でも、何度でも。僕が望む結末になるまで。リセットリプレイリスタート。

「どうして、そこまでしてくれるの?」

 君のことが好きだから。

「尽くすタイプなのね」

 君に好かれたいから。

「私のこと、よく知っているのね」

 いつも見ていたから。
 誰よりも愛してる。だから、早く僕のものになって。僕の心が壊れる前に。リセットするたび、僕の心はほどけていく。リプレイするたび、僕の心は溶けていく。リスタートするたび、僕の心は風化していく。それに気づかない罪作りな君は、いつかその罪を償わなければならないときが来るだろう。
 それとも、わざと気づかないふりをしているのかな。リセット、リプレイ、リスタート。

「さよなら」

 リセット。

「さよなら」

 リセット。

「さよなら」

 リセット。
 ……リプレイ、リスタート。
 いつか終わりが来ると信じて。リセット、リプレイ、リスタート。

「はじめまして」

 廻る世界で、その言葉から、やり直す。