Short Story
繋ぎ止める言葉を、
愛してる、愛してる。彼女は愛情を知らなかった僕に、いつもそう言っていた。幼い僕はその言葉の意味を理解しようとしたけれど、分からなかった。でも、僕が愛してる、と返すと彼女は嬉しそうに笑う。その顔が見たかった。
思えば、当時はその言葉に家族としての愛情があった。けれど、それはいつしか変わり初めてしまった。愛してる、愛してる。彼女が言う。僕は愛してる、と返すけれど、彼女の言う言葉とは違っていた。
「愛してる」
「愛してる」
違う。違う。僕の愛してるは、違う。家族としたの愛情。それもある。僕は彼女のことを母親で、姉のように思っている。でも、違う。僕は彼女を異性として愛している。違う。いや、そうなのかもしれない。分からなくなっていた。彼女のことは愛している。だが、それがどういう思いで愛しているのか、僕にはもう分からない。一緒に居る時間が、長すぎたんだ。
「居なくならないでね」
彼女は言う。僕も、「居なくならないで」と言うと彼女は笑う。どちらかが消えてしまうなんて嫌だ。ずっと一緒がいい。一緒に居る時間が長すぎて、『アイシテル』の意味が分からなくなっても、一緒がいい。いわば、依存関係。それを繋ぎ止める言葉。
「愛してる」
僕らは今日も、愛を囁く。