Short Story

意味のないことを続ける




 意味のないことを続ける。意味があってしている訳なのだが、それは他人から見れば意味のないことに見えるらしい。

「貴方……本当に飽きない人ね」
「それはありがとうございます、お嬢様」

 僕の頬にある痣。主人である旦那様に殴られた跡だ。毎日毎日お嬢様との結婚を認めてくださいと言っているのだが、旦那様はそのたびに僕を殴る。酷い主人もいたものだ。

「褒めてないわよ」

 突き放すように言っておきながら、お嬢様の頬は赤い。耳まで真っ赤になって、夕焼けみたいですよ、お嬢様。
 僕が毎日結婚を認めてくれるよう頼みに行くのを、他の使用人たちは意味のないことだと言う。でも、僕とお嬢様にとってそれはとても意味のあることなんだ。

「お嬢様」
「何よ」
「絶対、結婚しましょうね。僕は諦めずに何度でも旦那様に挑みますから」
「……馬鹿。私はおばあちゃんになっても待っているわ」
「ありがとうございます、お嬢様」

 お嬢様の左手の薬指に輝く銀色の指輪。決して高価なものではないけれど、お嬢様は気に入ってつけて下さっている。それだけで嬉しい。僕はまだ、お嬢様に噛みついたままでいられる。
 月のお嬢様、スッポンの僕は必ず結婚を認めてもらえるよう、毎日挑み続けます。
 意味のないことでも、続ければ意味があることだと他の使用人たちだって認めてくれるはずだから。

「待っていて下さいね、お嬢様」
「噛みついたまま離れない人に言われたくありません」
「僕がスッポンなので、それは仕方のないことですよ」