Tragedy

〜 壊れゆく世界へ 〜

世界と戦闘兵器




 人類は、平和に暮らしていた。エネルギー問題、資源の問題、温暖化など様々な問題を抱えながらも、人類はきちんと、生きていた。
 だが、状況は一変する。突如空からやって来た、古い表現をするならば【宇宙人】と呼ばれる存在が人類に猛威を揮った。技術の差もあり、戦っても勝てるわけもない戦いで、何人もの兵士たちがその命を散らした。
 地上は【異界人】―――自ら異界から来たと名乗ったため、今では【異界人】と呼ばれている【宇宙人】―――によって支配され、人類は住む場所を失った。それでも、安住の地を求めた人類が選んだ場所は、地下だった。
 残されていた人々は地下のシェルターで生活し、蟻の巣のように小さなシェルターから巨大な都市を作り上げた。【異界人】によって放棄された兵器などもあり、それにより、地下で人類は着々と【異界人】との戦いで勝つ準備をした。兵器を開発し、人造人間も作り、【異界人】に勝つためならば、どんな非道な人体実験であろうと行った。
 そうして、人類が地上を離れ、十数年。人類は今だ、地下での生活を強いられていた。だが、全ての者が地下に住めた訳ではなかった。地下での権力は金持ちが有し、金のない者は地下を去るしかなかった。行く先は、今だ戦火が絶えない地上。地上ではそのような人々が集団で生活し、それを【ウツロ】と呼ぶ。危険があればチリヂリになって逃げ、また同じメンバーで集まるか、別の【ウツロ】の輪に入れてもらうか。その名が示すとおり、とてもおぼろげな存在だ。だが、そうしなければ生きられなかった。
 今までの戦いで、人類の数は半分以下になるまで減ってしまった。
 それでも、人々は生きる道を選ぼうと必死だった。

 人類が生き残るうえで重要だったのが、戦闘兵器だ。【異界人】の戦闘兵器は自らの思考を持ち、考えながら戦闘を行うという人類が目指してもまだ手の届く事のない技術を持っていた。
 人類は戦闘兵器をミサイルなどで破壊し、その後地下へと持ち去った。そこで研究をし、【異界人】の戦闘兵器を真似て、自分たちの戦闘兵器も作った。それが実用可能となったのはつい最近だが、それでも【異界人】側が未だに優勢のままだ。
 いつまで、戦いは続くのだろうか。このまま、人類は滅ぼされてしまうのか。
 壊れゆく世界に、一人の男が舞い降りた。人類を見つめるため、見定めるため、男は目の前で人が死んでいく姿さえも、黙って見続ける。



   ◆



 これは、或る【Tragedy―――悲劇】に巻き込まれた者たちの物語。
 壊れた兵器と出会った少女の、静かな終末。
 愛する人と共に生きるか悩み苦しむ男の、穏やかな最期。
 蝶々を愛した男が追った数万匹の蝶々の幻想。
 真実へ近づこうと努力し、真実に殺された少年。
 平和を守る者を知り、彼と共に逃げる道を選んだ少女。
 戦闘でしか、己を貫く道を選べなかった女と戦士の、悲しい終わり。
 心が死んだ少年兵と彼に心を取り戻させた女戦士の、嘆きの最期。

 そして、【悲劇】はもう一つ。
 或る男と、彼に無情の愛を注がれる少女の物語。
 果たして彼のしゃがれた声は、物語を紡げるのか。