哀した
世界




 私は、私の生まれた世界など愛していない。世界も私を愛してくれなかった。もしかして、私は世界に愛されたかったのだろうか。それとも。
 考えていても、何も変わらない。私はどこかでずっとそう思っていた。変化が起きたきっかけは、友人の失踪だった。私の中で何かが吹っ切れた。今まで育てて貰った家に感謝し、家を出た。行き先に当てなどない。ただ、進みたかった。いつまでも考えているのは嫌だったから、その道を選んだ。
 けれど、行き先に困り、公園のブランコに座った。どうしようか、なんて考えながら失踪した友人の姿を思い出す。彼女なら、何か手を貸してくれたかもしれない。けれど、それはできない状況だ。困り果て、私はため息をついた。

「これから、どうしよう」

「――手を貸してあげようか?」

 突如、現れた二人の子ども。二人の出会いが、運命を変えた。



   ◆



「世界が嫌いだったの?」

 拾った子どもにそう言われ、私が彼に過去を話すのは初めてだったことに気付いた。私だけ彼の過去を知っているのは不公平だから、と彼がごねたから話したのだが、予想以上に彼は私の話に食いついてきた。
 ――世界が、嫌いだったのか。そんなことはもう、分からなくなっていた。私にとって、世界とはただ愛してくれなかった存在でしかない。

「わからないよ、そんなこと」

 曖昧な答えを言って私が笑うと、彼はむっと顔をしかめる。

「愛したの?」
「哀したよ」
「それ、違う。愛じゃなくて哀だから」
「そう、私は世界を哀したの。愛してなんかいない」
「それは愛するとは違うことなの?」

 違う、の言葉が出てこなかった。私自身、もうわからなくなっていた。

『白昼夢』デイドリーム、どうして世界を愛さなかったの?」
「どうしてだろうね」

 ごめんなさい。私は、君の欲しい答えを持っていない。私はまだ、答えを探している途中だから。
 故郷を捨て、名前も捨てた。今の私に残されているのは、私という自我だけ。これだけは大事に守らなければならない。

『白昼夢』デイドリーム、おれは『白昼夢』デイドリームのこと、愛してるからね」
「ありがとう、私も愛してるよ」

 口先だけの言葉。全ては嘘。私に愛なんてない。哀しか受けてこなかった私が、誰かを愛せるわけがない。ごめん、ごめんなさい。君の愛に答えることはできない。私は、とても臆病になってしまっているみたい。
 哀した世界。愛はなかったけれど、私の生まれ育った、大切な世界。もう帰ることはできないけれど、私が答えを見つけたら、あの世界を愛することもできるのだろうか。
 その答えさえも、私は持っていない。