Short Story
早春
「もうすぐ春ですねぇ」
そんな呑気なことを言うのは、我が家の奇妙な居候の雪男である。
ここで我が家の現状を報告しておこう。雪男の影響で家の中は暖房をつけても外のように寒い。暖房をつけなかったら気温は氷点下になる。そのため、我が家の暖房は必需品となり、いつでもつけている。電気代が馬鹿にならないが、暖房をつけなければ凍死していまうかもしれない。元凶である雪男を追い出せばいいと思うのだが、俺の一族はどうもヘタレらしく、お人好しのお袋のこともあり、雪男を追い出せずにいる。
「そうだな」
炬燵が暖かい。幸せだ。ストーブ?ほとんど意味ないよ。気休めだよ。炬燵だけが幸福だよ。
「あ、そろそろ時間なんで、出かけてきますね」
そう言って、にこやかに雪男は出て行った。バイトは、している。冷凍庫での食品整理のアルバイト。しかも雪男限定。雪男がやって来る冬の間だけ募集が行われる雪男にとってありがたい仕事である。
だが、今日は雪男にシフトは入っていないはずだ。ならば、どうして外出する。そういえば最近、外出が多くなった。どういうことだ。携帯電話だって、よく弄くるようになった。料金は雪男が自分で払っているため、いくら使っているのかは分からない。だが、そこまでして誰と連絡を取っているんだ。医者とか、じゃないよな。医者と携帯電話で連絡取り合うなんて聞いたことねーよ。じゃあ、一体どこだ。どこに行っている。むしろ、誰と会っている。今日、一昨日、五日目にも外出したな。一昨日は近くのコンビニに買い物に行ったから、すぐに帰ってきた。問題は五日前だ。三時間も外出していた。外出が多くなる前は、基本的に家の中で過ごすことが多かったのに。どういうことだ。……まさか、女、とか。
いやいや、それは絶対にありえない。確かに雪男は俺たち人間と大差のない容姿をしている。というか、むしろイケメンに分類される奴だ。女の子がいても、おかしくはない。優しいし、気が回る。なら早く家から出て行けよ、と思うがそれは置いておく。容姿性格共に問題なし。むしろ良物件である。収入とか雪男の住む雪山社会についてはよく知らないので分からないが、雪男に女の子か。
「いても、おかしくないよなぁ……」
俺にはいないけど。
炬燵で温もりながら呑気に過ごしていると、俺の携帯電話が着信音を鳴らした。一体、誰だって言うんだ。画面を見ると、雪男の文字。メールだった。
『恋人ができたので、一泊の旅行に行ってきます。帰りは明日の昼になるので、心配しないで下さい』
いつの間に着替えとか持って行ったんだあいつ。抜かりない奴め。畜生。
しかし、俺の家や外よりも早く、雪男に春がやって来るなんてなぁ。
あ、お袋に連絡しなきゃ。明日の昼は赤飯だって。