「見つけるものは見つけられたけど、証拠は何処にあると思う?めばえ君。」
証拠がなければ、犯人を追いつめることは出来ない。決定的な証拠が必要なんだ。けれど、その証拠が何処にあるかも分からない。
「うーん、変に隠すよりは、おおっぴらにしておくか、自分たちのすぐ側に隠しておくか。」
「灯台下暗しってこと?」
「そゆこと。」
木を隠すなら森と言うが、犯人を隠すなら、普通なら文化祭の群集の中。犯人はそれで隠れられるが、証拠が何かは分からない。凶器はおそらく存在しない。いや、存在しないわけではないが、決定的な証拠にはならない。ならば、どうすればいいのか。
「証拠って、何が証拠なんだろうな。」
「そこなんだよね。」
凶器らしい凶器は、この事件においては使われていない。なので、見つかるわけもない。この凶器は普通に置いておいても違和感などない物だ。証拠には不十分すぎる。僕らで探すのは難しいかもしれない。だが、ならばどんな証拠を見つければいいのか。
考える。考えるしかないんだ。どうすればいいのか。一体、どうすれば証拠が。……あれ、そもそも、この事件に証拠なんてあるのか?そこが疑問だ。証拠がない事件は、完全犯罪だ。完全犯罪に近いこの事件、一体、どうすれば。
「そーいや、被害者の人たちは大丈夫なのかなー。」
弟君が呟いたのを聞いて、はっとした。すぐさま弟君を見ると、こちらを見ながらニヤニヤと笑っていた。確信犯か、コイツめ。
「……してやられたよ。」
「そりゃ、どーも。」
「めばえ君、様子を見に行ってくれるかい?」
「いいぜ。面白そうだし。」
弟君の顔は、悪戯に成功した子どものように目を輝かせ、楽しげだった。僕は苦笑するしかできなかった。
◎
それから、僕は一旦弟君を置いて、皆の居る教室へ戻った。弟君は僕がお願いした通りに動いてくれた。有難いことだ。部長や部長さんたちには「調べて欲しいことがあるから、頼んでおいた」と嘘を言っておいた。嘘という訳でもないので、なんとも言えないが。弟君が帰ってくるまで、部長や部長さんたちと他愛もない会話を繰り広げた。
僕の推理が正しければ、弟君はすぐに帰ってくるはずだ。そう思っていた僕の考えは正しかったようで、弟君は十数分もすれば帰ってきた。
「収穫は?」
僕が問うと、弟君はニヤリと笑った。そして、「後で報告する」と言った。さすが、よく分かっている。口頭だと誰かに聞かれる可能性だってあるからね。
すぐに携帯が鳴り、確認してみると、弟君からのメールだった。見てみると、僕の推理は正しかったようだ。推理に自身がないというわけではないけれど、確証を得られる何かが欲しかった。だから、とても安心した。
僕は、一人でも推理はできる。だが、それは所詮穴あきの推理でしかない。僕一人では、その程度の推理しかできない。僕は天才ではない。だから、皆の力が必要だ。今回は弟君のおかげでとても助かった。弟君がいなければ、僕は穴あきの推理のまま、事件を解決しようとしてしまうだろう。他者によって後付を得て、それを強固にする証拠も見つける。それが、僕の推理だ。
「さて、皆さん。舞妓はん、お嬢さんが殺されそうになった事件を解き明かすことができました。話すことがあるので、美術室に移動して下さい。」
隣に居る弟君に目配せする。お前も手伝え、という思いを込めて。弟君はため息をついた。どうやら伝わったらしい、手伝ってくれるようだ。渋々だが、協力してくれるのでそこは無視しよう。手伝ってくれるだけで十分だ。推理の手伝いだって、してもらったことだし。
さて、事件を解き明かそうじゃないか。
【王様】の言う、探偵むしめがねとして。
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