裏話




 『青に落ちる』は、課題で書いたものが最初でした。そこに加筆修正し『黒は届かない』『キへの憧れ』を追加して一冊の本にしました。
 途中で出てきたひまわりは第一稿の名残です。没にしようかと思ったのですが、勿体ないなぁという気持ちがあったので使いました。第一稿はかなり設定が違っていて、アオが人間の女の子で、ひまわりなどの花を育てている設定でした。色々あって没になりました。
 設定が一番変わったのがアオで、何一つ変わっていないのが主人公です。友人たちはアオの設定変更に伴って変更されました。第一稿での彼らはただの幽霊でした。
 アオの設定を考える際にコンセプトにしたのが、『裏のある女の子』でした。綺麗な面しか男には見えていないけれど……というものがありました。主人公は『綺麗な面しか見ない男の子』、です。第一稿はこんなことではありませんでした。だいたいいつも第一稿はこんな感じです。
 主人公の名前が全編通して出てこなかったのですが、決めてありました。出すところが思いつかなかったというか別に出さなくてもいいか……と思って出さなかった気がします。彼の名前は水無海音と言います。海音でカイトと読みます。こだわりがあったような気がしますが、まったく覚えていないので真相は闇の中です。友人たちの名前は僕っ子が陽月(ひづき)、俺っ子が駆(かける)、ぼくっ子が克己(かつき)と言います。適当につけました。

 舞台は三重県の某所を元にしています。私は数回、夏に行った程度ですが海と山に囲まれたとても綺麗なところで、『青に落ちる』にぴったりだと思って使いました。水難事故については離岸流が原因のあの事故をモチーフにしています。
 人物設定はアオが一番難しかったです。第一稿は前述のとおり、第二稿から人魚という設定が追加されました。この時は普段は陸に上がって人のフリをして生活し、花を育てている、という設定でした。第二稿は花をきっかけに知り合った二人だったが、主人公がアオの秘密を知ってしまって……という話だったと思います。
 最初の『青に落ちる』が課題で書いたものだったので、字数制限がありました。短編、ということだったので、第二稿のままだと長くなってしまうので没になりました。そこから現在の第三稿に至ります。

 『黒は届かない』は友人たち視点の物語です。当初は執筆予定などなかったのですが、案外気に入っている話です。
 叫んでも気付かれないと心が折れそうになるけれど、それでも彼らは気付くその時まで叫び続けるのでしょうね。不毛なことなのかもしれません。
 惜しむべきは友人たちの出番の少なさです。もっと出番あげたかったなぁ。

 『キへの憧れ』はアオ視点の物語。第二稿から第三稿の間にアオの設定が大幅に変わったので、『青に落ちる』だけでは入れられないものが多々あり、それを補完するためのものでもあります。
 『青に落ちる』では純粋なアオの描写に気を付けました。彼女が本性を出すのはほんの少しだけ。一匙の珈琲みたいなものです。けれども、それも主人公目線で見た時だけのことです。
 彼女は裏ではえげつない子です。裏のある女の子が私は好きです。
 アオは人魚姫もモチーフになってますが、一番は神話に出てくる海の女神です。海の女神であると同時に死者の国の女神でもある方です。
 そのため、アオの命令に友人たちは逆らえません。黙れと言われれば黙るしかないし、あっち行け、と言われれば逃げるしかないのです。アオの言うことは彼らからすれば絶対。誰にも彼らを救うことはできません。海で死んだ命は全て、アオのものになるのですから。
 主人公もいずれは海で死ぬことになります。そうして永遠に、アオに愛でられるのです。ずっとそばに置いておきたければ、アオは彼を殺していたでしょう。けれどアオは今、一緒にいることを選びました。限りある時間で、アオにとっては瞬きするほど短い時間ですが、生きている彼と過ごす日々を選びました。
 死者と過ごす彼女だからこそ、生きることをよく分かっていました。それが死よりも、共にあることよりも、尊いものだと。人間は弱いけれど立ち向かうことのできる生き物だと、彼女は、彼らから知ったのです。
 彼が死んでしまうその時まで、彼女は彼に寄り添い続けることでしょう。そして、一時の交流を楽しみ、やがて彼は死んでいくのです。その時の彼の死に場所は、やはり海です。

 青春のボーイミーツガールのような作品が書きたかったのですが、私のは違うようです。もうちょっとボーイミーツガールの勉強をしてから再チャレンジしたいと思います。